企業活動の原動力となる人材の活用を図り、人手不足に対処していくためには人材育成・能力開発を通じて、従業員が生み出す付加価値を向上させていくことが必要となります。
そのためには、各階層別に求める人材像を明確にして、効果的な教育訓練を進めていかなければなりません。
1.人材育成の必要性
今の時代、中小製造業では差別化を図るのには多くの時間を費やし固有の技術力や質の高いサービス力を高めていく必要があります。技術力やサービス力を高めていくためには、まず「人で差別化を図る」ことが必要になってきます。
確かに中小企業にとって、社員教育に時間とお金をかけるのは大変なことです。
しかし、中小企業は、「お金と手間をかけて社員を教育する」ことで、生産性向上利益向上を図っていく以外に、生き残る道はないのです。
人材育成は「仕事をすぐに覚えるために」といった目先の目的で行うものではありません。「会社の将来を見据えて、5年後、10年後にこうなりたいというビジョンを描き、そのためにはこんな人材が必要で、社員にはいつまでにこんな能力を身につけて欲しい」という会社としての目標に沿って進められるべきです。
2.人材育成のステップ
では、人材をどのように育成していけばいいのか、その進め方、内容について階層別に考えてみます。進め方は以下のステップで行います。
ステップ1 強化すべき工場の機能と、期待する人材像を明確にする
ステップ2 現状の人材レベルと期待する人材レベルのGAPを把握
ステップ3 GAPを埋める教育・訓練計画、採用、評価制度見直し
つまり、人材像、育成、活用、評価、処遇の人材マネジメントサイクルのしくみを整備しDCAを回して行く必要があります。階層別教育を行う場合の分類は以下の通りとします。
・新人育成:優秀な新人の新規採用と教育
・多能工育成:直接/間接業務を問わずマルチ業務を身に付ける
・熟練技能者育成:暗黙知の技能の継承を図る
・現場リーダー育成:現場の生産性向上、品質向上のための「プロ人材」育成
・次世代幹部社員育成:将来の経営を担う社員の育成
いずれの階層においても、「工場の将来像」「そこで求められる人材像」が明確になっている必要があります。経営層は、教育の必要性を認識しているからには、現状の人材にどのようなスキルの習得を求めているのかを明らかにしなければなりません。
次に、人材像が明確でも、人材育成の手段については明確になっていない場合が多いので
以下に、各階層の教育体系例を示します。管理層の教育が不十分の場合は、当然部下の教育も不十分となります。
(1)新人の育成
新人はOJT主体で教育を行っている例が多いようですが、より効果的な教育を行うにはOJTと集合教育をミックスさせること、また、計画、実施、評価、フィードバックのサイクルを回すことが重要です。
(2)多能工の育成
多能工のしくみは、トヨタ生産システムのなかで工作機械の“多台持ち” さらに1人が複数の異なる工程を受け持つ“多工程持ち”化を進めたことが始まりとされています。現在のように、多品種少量生産化が進むと、機種ごとに作業を覚えるのではなく、機種共通の、基本作業をリストアップし、標準化を行い、その基本作業を教育訓練することで、多能工を育成します。
また、間接作業も多く発生するため、間接作業の標準化と多能工化も必要になっています。
(3)熟練技能者育成
熟練技能者の作業を分析すると90%以上は繰り返し作業+選択作業と、10%の熟練者にしかできない暗黙知の作業とに分類できます。
・選択的判断工程:簡単な選択肢を与えれば非熟練者でも判断できる工程
・作業工程:毎回繰り返し同じ手順で行っている工程
これらの作業は「形式知」の作業として作業マニュアル化を行います。そして高度な熟練作業は、以下の手順で伝承を図ります。
①ベテランの作業を動画撮影し、後継者が質問し、カン・コツ部分を引き出す
②カン・コツを含む手順書を後継者に作らせる
③実際に作業を実施して、結果の差を実感させ、なぜ差が生じるのかを理解する
(4)現場リーダー(プロ人材)育成
現場リーダーの育成は、最も必要性を感じていることと思いますが、理想のリーダー像を描いても、実際にどうやって育成したらいいか?明確な解を持ちあわせていない場合が多いのです。
リーダーシップ研修などを受講させることも必要ですが、実際の業務の中で、課題を自らの力で解決していく、「チャレンジ」して「失敗」を重ねながら、再び「チャレンジ」する、そこに上司の「サポート」が加わることによってリーダーの成長が加速されるのです。
・困難を伴う課題にチャレンジする機会を与える
・サポートする
・評価する
運よくこのような場面に出会う、また自らが行動して難題に向き合うことが無ければおそらくリーダーとしての成長のチャンスを逃してしまうというのが、多くの企業の実情ではないかと考えます。
そこで、第一線の監督者、中堅社員クラスが中長期的な課題や、現状の問題点の改善に取り組む、「全社業務改善活動」をしくみ化します。第一に、取り上げるテーマ(課題)は、企業内外の現状を把握し、現状との進むべき方向、目標との差を確認し設定します。
・上位方針として近い将来の目標(QCDS)
・お客様の要望
・同業他社との競争力、優位性確保
第二に、活動における攻めどころとして目標と現状との差、職場の対応力などを考慮して課題達成させるための着眼点を設定します。
第三に、絞り込まれた予想効果の大きな方策案の具体的な実現方法(シナリオ)を検討し経営資源や制約条件を考慮して,具体化したシナリオごとの効果を予測し,対策案をまとめ実行に移します。
第四に、定期的(毎月)実行した結果(経過)をレビューし、計画通りかチェックします。
管理層、トップは必要に応じてフォローを行います。このような活動を半年、または一年スパンで繰り返すことによって、一つ一つ課題が解決し、「プロ人材」として成長が図られ、大きな教育効果が期待できます。
(3)幹部社員の育成
会社の将来を担う幹部社員候補の教育についても、実態はお寒い状況です。環境変化への対応、グローバルな視点から求められる人材は、以下のような知見を持っていることが求められます。
・経営理論:組織理論、経営戦略理論、財務会計理論など
・マーケティング理論:ブランド戦略、プロモーション戦略、価格戦略など
・マネジメント理論:人材マネジメント、リスクマネジメントなど
・固有技術:自社固有技術の発掘と育成
一般に、今までの現場の経験に基づいた技能、管理技術は持ちあわせていても、管理者としてはそれだけでは不足です。日本では、年功的な評価で、管理職に昇進させますが、実際に会社をマネジメントする、工場を改革していく力量はかなり不足しているというのが実情です。当然、人材の重要性を認識しつつも、社内育成システムも十分整備されてるとは言えません。
これには、経営トップ層の意識付けと、幹部社員自ら世の中の動向にアンテナを張り巡らし、自己研鑽につとめ、自社のあるべき姿を描き、そのためのリーダーシップを発揮することが求められます。
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