品質工学(タグチメソッドのパラメータ設計):製造業の導入事例

品質工学(タグチメソッドのパラメータ設計)は何のために行うのでしょうか?

製品の信頼性を確保するための設計手法はFMEA/FTA/リスクアセスメントなど様々な方法があります。


1.従来の信頼性の考え方

自動車のリコールの増加は、製品自体の構造が複雑になったこと、消費者の目が厳しくなったこと、それに、開発期間の短縮で、設計工程で問題をすべてつぶし込むことができないなど、以前とは異なった市場環境における従来型の品質管理の限界を示しているのです。


品質管理でリコールが防げない理由は、リコールの原因が設計段階で仕込まれているからです。したがって設計の方法と考え方を「未然に防止」の考え方に革新しない限り、リコールを減少させることは難しいのです。しかし、今までの設計手法では、顕在化していない不具合を見つけ出すために膨大な時間とデータが必要となる点です。


従来の信頼性試験では、数カ月――場合によっては1年以上の歳月をかけてテストをしてきました。それでもすべての不具合点を評価できたわけではありません。さらに未知の現象にまで対象を広げるのですから、いままで以上の長時間と大量のデータ数が必要となるでしょう。いままでの方法論はもはや現実的ではありません。立ちはだかる時間とデータ数の壁に対して、どうすればいいかということが問題となっているのです。


2.現在の開発設計方式

現在の開発設計方式は重大な問題点を抱えており、タグチメソッドを組織的に活用し、開発プロセスの改革を推進する必要があると言われています。

■ 現在の開発方式の問題点

 設計 ⇒ 第一次試作 ⇒ ノイズを加えて試験 ⇒そこで設計 改良

 第二次試作 ⇒ ノイズを加えて試験 ⇒ 改良 ・・・

 量産 ⇒ 市場投入 ⇒ 品質トラブル流出

一般的な開発プロセスは、上記のようなステップで行われています。これでは、開発期間、費用はかさんでしまい、なおかつ完全には品質が安定せずに、多数の品質トラブルの追いまくられることになります。


■ タグチメソッドの開発方式(2段階設計法)

 ノイズに強い設計 ⇒ 目標値に調整する

 量産 ⇒ 市場投入 ⇒ 品質トラブルは最小化


タグチメソッドでは、作ってからノイズに強いかどうか試験するのではなく最初にノイズに強い設計にすることです。タグチメソッドの体系を企業の開発方式に組み込めば、現在の開発の問題点の多くが解決できると考えられます。


自動車に例を取るならば、騒音などの問題が市場クレームとなったとき騒音という特性に対して、その要因となっているシリンダー、ピストン、ピストンリングの形状、寸法、材質などに改良を加えることになる。そして図面や規格で規定します。


しかしながら、使用部品の信頼性は、図面や規格だけでは規定できません。タグチメソッドの中心的な考えは、この部品のばらつきや使用環境などのノイズに対するロバストネスを源流である技術開発段階で追求しようとするものなのです。


愛知県の伊那製陶のタイル製造において、釜内部の温度ばらつきでタイルの寸法、つや、反りなどのばらつきが大きかった。それをタグチメソッドを使って改善し、大きな成果を得たことは有名な話でです。


3.ロバスト設計の考え方

前置きが長くなりましたが、タグチメソッドの狙いは、市場で発生する不具合を設計段階で未然に防止することです。下の図をご覧ください。

品質工学(ロバスト設計)とは、システムに於いて、コストを掛けずにノイズによる出力特性の変動(ばらつき)をなくす設計手法です。(不具合発生確率の予測は困難だが安定性は容易に測定可能)設計時点における不可避なばらつき要因(使用環境・部品そのもの・劣化)を取り除くのではなく影響を減衰させる設計を行うのです。(ロバスト設計)

品質工学におけるノイズは 以下の3 種類に分類しています。

 ・外乱 システムの外部から加わるノイズ。環境変動や使用条件のばらつきなど。      

    (静電気、塵埃、温度・湿度、誤操作、ポカミス)

 ・内乱 システムの内部で発生するノイズ。使用部品や材料の劣化、特性のドリフトなど。     

    (構造的な変形・摩耗、劣化、化学変化、ドリフト)

 ・品物間ばらつき 使用部品や材料のばらつき。品物が作られたときにすでにあるノイズ     

    (物理的ばらつき、特性のばらつき)

従来から行われているばらつき抑制の一般的な設計は、まず目標の出力が得られる試作品を作り、その後、カットアンドトライで品質トラブルをつぶしていく。パラメータ設計では、システムの入出力関係のばらつきについて、その原因を追求しそれを抑え込む方法は採りません。

(いくらやっても切りがない、コストアップになる)

この場合、ノイズはそのままとし、ノイズの影響が最小となるような内部パラメータの値を実験により見つけ、グラフの入出力の関係を理想関係に近づけていきます。


4.ばらつきとは何か

ばらつきには、影響の大きい順に「使用、環境条件の変化」「劣化」「もののばらつき」があります。

(1)使用、環境条件の変化

お客様の使用、環境条件は様々であり、想定しない使い方や、温度や湿度、ほこりなどの条件で機能が安定しない、故障などが発生します。

(2)劣化

ものは当然、いづれは劣化(変質、変形、摩耗)します。製品を長期間保管しておいたり、使用している間に、その製品を構成している材料、部品等が時間経過とともに質的変化を起こし、あるいは寸法が摩耗変化し、また各種の負荷が継続する事により材料、部品定数が変化し、その影響で機能特性が低下したり、機能停止、故障状態となってしまいます。

(3)もののばらつき

ものは、最初からどれ一つ同じものは無く、ばらついています。その影響を受けて完成した製品の機能特性かばらつき、また、製品を作る製造設備は、しばしば故障したり設定した値が変化し、また作業者の手も当然ばらついている。その影響で機能特性にばらつきが生じます。


ばらつきの対処方法として公差や、機械設備の管理を厳しくする、ばらつきの少ない部品を

購入する、加工や検査の工程を追加する、ばらつきを補正する機構を追加するなどがよく行

われますが、コストがかかり現実的ではありません。では、コストがかからない方法はあるでしょうか?


5.パラメータ設計とは

品質工学は実験計画法の大家である田口玄一博士によってよって創始されましたが、実験計画法にはない、ロバストネス(robustness)という概念を持ち込み、それを実現する道筋を示し、実験計画法とは異なる独立した分野に発展しました。 


様々なばらつきに対して、影響を受けにくい設計をコストを掛けずに行おうとする場合、それには「品質工学」の力を借りることになります。品質工学は、「ばらつき」に強い設計をするための手法です。 別名「ロバスト設計」とも呼ばれるように、様々なばらつき原因に対してロバストな(頑健な、影響されにくい)技術/製品を最短期間で能率よく開発・設計する手法です。


ロバストネスを実現するための設計の最適化手法は品質工学の中で「パラメータ設計」と

呼ばれます。設計パラメータ(制御因子)を最適化することによって、ばらつきの原因(誤差因子)に対して強い、影響を受けにくい設計を実現する手法です。いろいろな設計パラメータに対して誤差因子によって揺さぶりをかけて、最も安定な設計条件を見つける、というのが基本的な考え方です。


また、設計パラメータのいろいろな組合せ条件を「直交表」で発生させて実験することにより、実験能率の向上を図っています。

二段階設計は、パラメータ設計の実質的な部分で、品質工学の真骨頂とも言える部分です。実験計画法を駆使して、パラメータ(条件)を決めます。その点は、実験計画法そのものなのですが、パラメータの決め方が、二段階からできているので、二段階設計と呼ばれます。二段階設計の一段階目が、ロバスト設計という考え方から来ている部分です。


ばらつきを小さくしてから、目的の物性値に動かすという手順です。平均値と標準偏差という言葉を使うなら、 標準偏差を小さくできる条件をまず見つけ、それから、平均値が目的の値になるように調整するとも言えます。この順序が逆だと、品質のばらつきに振り回されることになると提言しています。


ものづくりは開発の早い段階に負荷を掛けてコストと品質の作り込を行い、その結果総負荷を低減するとともに、開発期間も短縮させます。ロバスト設計は、まさに製品開発のフロントローディングであり、製造段階のコスト削減や、市場へ出てからのクレームをゼロにする最も有効な手段と考えられます。


ロバスト設計は、製品開発のフロントローディングであり、製造段階のコスト削減や、市場へ出てからのクレームをゼロにする最も有効な手段と考えられます。タグチメソッドでは、作ってからノイズに強いかどうか試験するのではなく最初にノイズに強い設計にすることです。タグチメソッドの体系を企業の開発方式に組み込めば、現在の開発の問題点の多くが解決できると考えられます。

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