実験計画法による安定した工程の実現方法【事例解説:穴あけ加工精度向上】

製造業の現場では、工程品質に影響する4Mの品質作り込み要因がありその中から、最も良い品質が得られる要因の組み合わせを決め、製造工程設計を行う必要があります。


1.穴明け加工精度向上の課題にどう対応するか

例えば、機械加工において、ドリルで穴をあける場合に、穴径の精度に影響する要因は、ドリルの回転速度、送り速度、切削速度などによって決まります。ちなみに、各要因の具体的数値は、ドリルのカタログを参照したり、計算式で求めることができます。

 回転速度=切削速度×1000/(3.14×刃径)

 送り速度=1回転当たりの送り量×1分間当たり回転数

 切削速度=3.14×刃径×回転数/1000

しかし、メーカーカタログの推奨条件や計算式は参考程度とします。なぜなら、実際の加工物や、機械の特性などの違いによって、必ずしも推奨値通りにはいかないからです。これらの要因の設定は、従来からの経験で、熟練者が組み合わせを決めてしまう場合も多いと考えられます。


そこで、最も品質が安定する要因の組み合わせを決定するためには、試作実験を行います。しかし、要因の組み合わせ数多いと、その試作実験の種類が膨大となり、無計画な実験を行っても、労力がかかる割には、良い結果が得られる保証もありません。


2.実験計画法とは

このような現場の問題解決のために実験計画法は考案され、これを適用することによって、品質に影響する要因の数が多くても、効率的、効果的な実験が可能となり、要因の組み合わせ実験の回数を最少にすることが可能となります。


直交表(直交配列表)とは、どの列をとっても、その水準のすべての組み合わせが同数回現れる配列のことで、下図に、直交表の見方と使い方を示します。設定する条件の項目を要因(因子)、その内容を水準と呼びます。

直交表L4は、4行3列から構成されています。また、各行各列の数字は1と2であり、水準を表しています。3つの列に2水準の要因を対応させると各行は要因の水準を組み合わせたものを示すことになります。例えば、穴径の精度に影響する要因を3種類、それぞれの設定値を2種類とすると、通常は2×2×2=8種類の各組み合わせで実験を行い、穴径を測定し、どの組み合わせが一番優れているかを確認する必要があります。

 ドリルの回転速度 (低い/高い)

 送り速度 (速い/遅い)

 切削速度 (速い/遅い)

しかし、上記の直行表L4を使って実験を行う場合は、4回の実験を行えば済む事になります。

直交表はL4以外にも多数あり、要因(因子)の数と水準により最適なものを選択できます。2水準の要因を扱う直交表は、2n系と呼び、3水準の要因を扱う直行表は3n系と呼び、2水準系の要因を7個まで扱える直交表L8(27)3水準の要因を4個まで扱える直交表L9(34)などがあります。

つまり、上記の穴径精度に影響する因子として、例えば切削油の供給量を加えた場合は、4種類の因子を扱うことになるので、直行表L8を使用する事になります。


3.実験の計画

実験の手順は大きく、1.実験の計画、2.実験の実施、3.実験データの解析の3段階に分かれます。まずは第一段階として実験を計画します。

 1列にドリルの回転速度(低い:水準1、高い:水準2)

 2列にドリルの送り速度(遅い:水準1、速い:水準2)

 3列にドリルの切削速度(遅い:水準1、速い:水準3)

各因子と水準をL4の直行表に割り付けると下図のようになります。この表は実験のやり方を示す指示書でもあり、実は全ての組み合わせが8通りあった実験が、直交表を使うと4通りの実験で済むことになります。


次に、実験で用いる水準の大きさは、それぞれ具体的な数値として決めていきます。

STEP1 各因子の水準の値を決める

実験に先立って、カタログ値、計算値を基に具体的な数値を決定します。

①ドリルの切削速度(遅い:水準1、速い:水準2)

②ドリルの回転速度(低い:水準1、高い:水準2)

③ドリルの送り速度(遅い:水準1、速い:水準2)

①切削速度はメーカーカタログに記載してあることがほとんどですので計算する必要はあまりありません。ドリルの品番と被削材を確認して、切削速度を調べてその値を使用して、遅い/速いを決めます。例えば超鋼ドリルを使用して、ステンレス鋼に穴あけする場合は15~30m/分と指定されているので遅い:15m、速い:30mと決めます。


②切削速度とドリルの径がわかるとドリルの回転速度を求めることが可能です。回転速度=切削速度×1000/(3.14×刃径)の式から3mm径のドリルを使用すると、低い:1600rpm、速い3200rpmとなります。


③送り速度は計算でも求められますが、カタログに記載してあるものを参考にします。超鋼ドリルを使用して、ステンレス鋼に穴あけする場合は、0.1~0.3mm/revですので、遅い:0.1mm/rev、速い:0.3mm/revとします。

①ドリルの切削速度(遅い:15、速い:30)

②ドリルの回転速度(低い:1600、高い:3200)

③ドリルの送り速度(遅い:0.1、速い:0.3)

直交表(L4)に因子と水準を割り付け、これで実験の準備が整ったことになります。

STEP3 実験データの解析

(1)数値的分析

因子ごとに水準別平均値を計算して、数表にまとめます。1~4の実験をそれぞれ10回実施して、合計40個のデータを取得します。(回数は多ければよいが、それだけ手間がかかることになります)

(2)視覚的分析

数表を基に、下図のようなグラフを作成して、各因子の特性値への影響の大きさを検証します。水準間の平均値の差が大きい因子ほど、特性値への影響が高い因子といえます。これ見ると回転速度の因子の効果が大きく、次に送り速度が続いています。回転速度の因子の変化は一番小さく、特性値への影響は少ないと言えます。

以上の結果から、回転速度を3200回転に設定することによって加工精度が確保でき、ばらつきも少ないとの結論が得られた。今回は因子の数3、水準は各2で4回の実験を行ったが、因子の数を5、水準は各3としてL8の直行表を使った実験を行うことによって、より詳細な実験を行うことが可能となる。

(L8の直行表は前回①の記事参照)

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